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東京高等裁判所 昭和48年(て)428号 決定 1973年6月07日

主文

本件請求を棄却する。

理由

本件請求の趣意は、右請求人提出の上訴権回復請求書記載のとおりであるから、これを引用し、これに対し当裁判所はつぎのとおり判断する。

論旨は、さきに請求人に対する殺人被告事件につき昭和四八年四月二六日宣告された控訴棄却の判決に対して上告するつもりで、判決謄本請求をして、法律に無知なため、上告申立手続はそれで完了したものと考えていたところ、同年五月一八日刑の執行を受けるに至ってその誤まりに気付いたので、上訴権回復の請求をするというものである。

そこで関係記録を調べてみると、請求人はさきに前橋地方裁判所により宣告された殺人罪による懲役五年の判決に対して控訴し、当裁判所により昭和四八年四月二六日控訴棄却の判決を適式に宣告されたところ、その後、同年五月七日付をもって判決謄本下付願を提出したものの、所定の期間内に上告申立書を提出することなく、その期間を経過したことが認められる。右判決謄本下付願は、いわゆる不動文字を印刷した用紙の空欄に適宜記入したもので、その中に「上告の為に判決謄本が必要なので」との記載(上告の二字のみが空欄に記入されたもの)があるが、これを上告申立書と解することのできないのはもちろん、通常、上告申立書と誤解され易いのではないかと危惧の念を抱かせるような様式ないし内容でもない。請求人がその提出をもって上告の手続をしたものと誤解したものとしても、これをもって刑事訴訟法第三六二条にいう「自己又は代人の責に帰することができない事由」にあたるものとは解することができない。なお、同年五月二三日付受理された本件上訴権回復請求書の提出とともに、上訴の申立もされなければならないのに、本件においては上告申立書の提出された形跡も存しないから、その点において本件請求は同法第三六三条第二項にも違反するものである。

以上の次第で、本件請求は理由がないのでこれを棄却することとして、主文のとおり決定する。

(裁判長判事 吉田信孝 判事 大平要 粕谷俊治)

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